【お便りコーナー】第113回: 遊森謡子(10周年)先生

小説家になろうをいつもご利用いただきありがとうございます。
この度、小説家になろう登録作者である遊森謡子(10周年)先生よりお便りをいただきましたのでこの場にて利用者の皆様にお伝えいたします。

以下、遊森謡子(10周年)先生よりいただきました文面となります。

初めての皆さんもお馴染みの皆さんもこんにちは、遊森謡子(ゆもりうたこ)と申します。
『小説家になろう』さんには何と11年半お世話になっており、古参勢と言っていいのではないでしょうか。また、なろう作品で商業デビューし、おかげさまでこの2022年7月28日で10周年です。

有名作家ですとは逆立ちしても言えませんが、なろうさん出身で商業10年という作家はそう多くないようです。
そこで、どなたかの参考に、自分の記念に、そしてなろう運営さんや交流して下さる皆さんへの感謝を込めて、お便りを認めさせていただきました。

私がなろうさんと出会ったのは、2010年です。当時は個人サイトも隆盛で、私はweb小説、中でも当時人気だった社会人女子の異世界トリップものにどハマりし、探しては読みふけっていました。そのうち、同じ書式で書かれた小説をたくさん見つけたことから、なろうさんを知りました。
私も書きたい、という気持ちがむくむくと沸き上がり、2011年1月になろうさんに登録、初投稿。自分でサイトを作れない私のようなアナログ人間でも、簡単に投稿できるシステムのおかげで、なろう作家になることができました。同じ経緯で読者から作者になった方、大勢いらっしゃることでしょう。

その時の私は、書籍化したいなどとはカケラも思っていませんでした。
なんて書くと「うっそだー」と言われそうですが、まだwebからの書籍化など数えるほどしか例がなかった頃です。そんなこと考えもしない方が『普通』だったのです。

というわけで、私はひたすら、たーーーのしーーーい! という気持ちだけで毎日小説を書いていました(笑)
なろうさんでは、読者と作者が交流して盛り上がります。私の大好きな、社会人女子が異世界トリップするという『型』(いわゆるなろうテンプレ?)も、まだ読んだことがない要素を入れて「こんなパターンもアリじゃない?」と書けば、打てば響くように「じゃあこれは?」と他の作品が現れる。ジャンルはさらに盛り上がります。同好の士がたくさん見つかるのも、嬉しいことでした。

半年以上書き、もっと多くの人に読んでもらいたいと欲が出てきて、アルファポリスさんのコンテストに応募。受賞はしませんでしたが、これをきっかけに声をかけていただき、2012年7月に出版デビューしました。こんなことが自分の人生に起こるなんて、と、夢のようでした。
それからも刊行は続き、夢見心地も落ち着き、やりがいのある仕事として向き合うようになりました。編集さんに色々と教えていただき、スキルアップもできていると思います。

ところで、皆さんは『アンダーマイニング効果』というものをご存じでしょうか。自発的にやっている行動に報酬が与えられると、やる気が出てさらに行動することができますが、その報酬がなくなったとたん、やる気を失って最初の自発的な行動すら減ってしまう……というような心理作用のことです。好きなことを仕事にしたら辛くなった、なんて話、よく聞きますよね。
デビューして5、6年が経った頃、この罠に嵌りました。今やっている仕事の次の予定がない、面白いと思って投稿した新作に数字がつかない。『なろう系』の面白さに世間が気づき、作家が次々とデビューしている中、私程度の作家なんて埋もれるばかりでは?
書くのをしんどく感じて、潮時かな、という思いが頭をよぎりました。

それでもまた、なろうさんに新作を投稿しようと思えたのは、書籍化を考えずに「好き!」だけで書いていた頃の楽しさを覚えていたからです。古参で得した点かもしれません。
気を取り直して書き始めたのは、これまた大好きな異種族の交流もの。それまで数字のためにと気にしていた更新ペースや投稿時間を、新作では考慮せず、とにかく自分が一番楽しく書けるように心がけました。書く楽しさが行間ににじみ出た作品は、読む方も楽しいですから。
流行要素の『薬草(薬師)』を入れたあたりは未練かもですが(笑)、ちょうど「ファンタジーに出てくる薬湯って面白いな」と思ったタイミングでしたし、既製品として作る薬ではなく個人個人に合わせて作る薬湯は、異種族交流ものとの相性がよかったのです。

その作品が、『Uターン薬湯屋の寝込みがちスローライフ』です。
https://ncode.syosetu.com/n3309fa/
ちょっとしんどいから楽に生きたい、という願望がタイトルにも表れているわけですが、これが読者さんの琴線に触れたのかどうなのか、久しぶりに数字が伸び始めました。
コンテスト系は応募しては落ちまくっていましたが、この作品でまた挑戦してみようか。今夜にでも応募タグをつけよう。
そう思っていた日の夕方、なろうマイページに赤い文字が。
なろうさんで書き続けて8年弱、初めての、運営さんを通しての書籍化打診メッセージでした。

こうして、『Uターン薬湯屋~』はフロンティアワークスさんのレーベル・アリアンローズから『薬草茶を作ります お腹がすいたらスープもどうぞ』と改題し刊行されました。
https://arianrose.jp/novel/?series_id=2128
全3巻、好評発売中です。あの時にあきらめなかった「好き!」をたくさん詰め込んだ作品です。

もう一つ付け加えるならば、面白いと思って投稿したのに数字が伸びなかった作品というのは『降嫁おとめと守護ぎつね』です。
https://ncode.syosetu.com/n8750ew/
現時点でも総合評価は1,531ptですが、あれから4年近く経った今年の春、pixivさんのマンガ原作コンテストで佳作を受賞しました。
10年作家やって、受賞したの初めてです。何がどうなるか、わからないものです……いや本当に……

ネット世界は全てがものすごいスピードで流れ、流行もあっという間に移り変わっていくように見えます。でも、積み重ねたものが消えるわけではないようで、過去作と世間の流行がいきなり「カチッ」とハマることもあるし、仕事の人間関係なども広がっていきます。
今も私は、自分の「好き!」を軸に、読者さんと楽しさを共有できる「流行」も取り入れつつ小説を書いています。数字はついたりつかなかったりですし(気になる方はマイページからご覧下さい)、仕事となると「好き」だけではどうにもならないことももちろんあり、悩みは尽きません。
でもやっぱり、基礎を支える部分は、お仕事作品も趣味作品も変わりません。

私にきっかけと、楽しむ場所を与えて下さった小説家になろうさん、本当にありがとうございます。
今後もどうなるかわかりませんが、踏ん張っていこうと思います。

一作家のお便りを最後まで読んで下さった方、ありがとうございました。
皆さんも、自分の中の「好き!」を世間の荒波から大事に守りつつ、web小説を楽しめますように。
そして、もしよかったら遊森の世界に遊びに来て下さい。一緒に物語を楽しみましょう!

遊森謡子