【お便りコーナー】第221回:稲井田そう先生

小説家になろうをいつもご利用いただきありがとうございます。
この度、小説家になろう登録作者である 稲井田そう先生よりお便りをいただきましたのでこの場にて利用者の皆様にお伝えいたします。

以下、稲井田そう先生よりいただきました文面となります。

はじめまして。稲井田そうと申します。10月1日に、シリーズ累計100万部突破中の「悪役令嬢ですが攻略対象の様子が異常すぎる」7巻と8巻が同時発売するので、宣伝にきました。

が、宣伝は得意じゃないです。

この場で最新7・8巻宣伝して新規読者の方を獲得しよう。あわよくば既刊の1~6巻も読んでもらおう。

無理があります。なので別の話をします。

これからするのは「上手くいかないな……」「書いていていいのかな」「ランキング全然入らない」と不安に思っている、書き手の方。

あともしかしたら出版業界の方……ご自身の担当作が中々ちょっと難しい方向けになります。

ので、「書籍化のコツを知りたいんだよ」という方は、上下? 前後ページで、他のちゃんとしてる作家様のもとへ、ご移動願います。ごめんなさい。ここから先はちゃんとしてない人間の話です。

悪役令嬢ですが攻略対象の様子が異常すぎる、長いので以下、本作と称します。

本作連載開始の2018年代、今から7年前です。

本作は連載1年半後(2019年10月頃)に打診を受けましたが、諸々、いわば可視化されるような値が、刊行の編集部様の書籍化の基準に満たしていなかったことを聞いています。誰かの希望となればと思いますが、絶望になりうる可能性がありますので具体数字については伏せます。

なぜ書籍化に至ったかと言えば、当時の担当編集者様が本作を読み、駄目もとで企画提出。担当者様が新人であったことや熱意により、当時の上層部が「新人の気概を買う」という書籍化ルートです。さらに詳しくお話しすると、たとえば面白いだとか、才能を感じたという事実はなく、元々女性同士の関係性に着目していた方が、本作の人物にそれらを感じた、というものです。

なのでいわば未来のために実験投入された期間限定ロボが、まだ動いてるという状況です。

当然「編集部イチオシ!」とは遠い位置にいますし、発売後いわゆるなにかの催しにノミネートする、ランクインする、賞を取る、電子ストアのキラキラした年間の場に姿を現わしたことは、なにもありません。

おそらくこの文面を読んでいる出版業界の方は「え、これそういう枠なんだ」と、心当たりが発生するのではないかと存じます。そういう枠です。

なので今こちらを読んでいる方で、投稿中もしくは書籍化が決まっていて「自分のブックマーク数……他と比べて低いかも」と感じている方は、ご安心頂ければと思います。

こういう例があります。

刊行前の数字はあくまで目安です。大番狂わせの可能性があります。

そんな奇跡信じられない、そう思う方がいるかもしれません。いいことがあった人間はずっといいことがあり、駄目なやつは何しても駄目なんだから、とか。

少し話が逸れるのですが、本作は、私がなろうに初めて投稿したものです。

商業デビュー作は別にあります。

本作とは出版社様のラインが異なるのでタイトルは伏せますが、発売は2020年3月末です。

発売まもなく、コロナウイルスによる非常事態宣言により書店様が全て閉じました。商業施設、ほぼ閉鎖です。

そういうことも起きます。ちなみに本作は同年7月に1巻が発売しています。まだ外に出ることが躊躇われていた時期です。

ブックマークやpt数が何かの基準に到達していなくても、いい意味で、起こりえないことが
起きる可能性のほうがずっと高いです。なので「未来のことなんて考えていても仕方がないのに不安に襲われる」という方がこのメッセージを読んで、「もしかしたら大丈夫かもしれない」と、持ち直すきっかけになればいいな、と思います。

未来のことを考えて不安になるのは、脳の仕様です。仕方ないのに考えてしまう自分を責める必要もありません。気になるものは気になります。それを前提で聞いていただきたいのですが、あなたは大丈夫です。

それでも「自分のpt数は低いしブックマーク数も少ない気がする、だから駄目な気がする」と、数字を重視されている方につきましては、私はシリーズ累計100万部突破作家なので、100万部突破作家の言葉を少し信じて頂ければと存じます。数字を重視されているなら。

そしてこちらを読んでいる編集職の方で、自分の担当している作品、少しブックマークとpt数が足りないな……ヒットさせられるか……とお悩みの方は、自信を持ってください。

自分はまだ編集部で結果出してないし、地位も無いし、入りたてだし、実績が無いから出来ることも限られてるし……ヒットさせられるか、なんて不安な方々も、ご安心ください。こういう例があります。

それに、編集者はヒットさせるのが仕事、経緯を重視することに甘えちゃいけない、結果主義であるべきみたいな風潮を聞いたりしますが、それは会社が掲げている経営理念に近いものではないか、と執筆側としては思います。決して代表者面してお話しするわけではないのですが。

個人的には、そういう風に悩む人間と仕事をすることそのものが、ヒットより嬉しい、自分が一生懸命書いたものを、そこまでの責任を持って向き合ってくれる人間と仕事が出来ることは、ヒットより貴重ではないかと思います。なので「ヒットさせなきゃ意味が無いんだ」みたいに自分を追い詰めることだけはどうかないようにと思います。

特に編集者さんで「みんなみたいにヒットが打てない、コツコツ自分なりに頑張ってるつもりだけど作家さんに申し訳ないし、向いてないかもしれない、もうやめたほうがいいのかな」と思う方、絶対にやめないように。

悩むあまりに認知のズレが生じており正気ではないです。

そもそも物語を好きになる理由に、「これ重版したから好き‼」「100万部突破したから好き‼」で物語を好きになるかという話です。重版も100万部も、動線です。「100万部売れてるんだ、じゃあ読んでみるかな」これです。好きを作るのは「コツコツ自分なりに頑張ってるつもりだけど」からしか生まれないものです。

やめるな。向いてる。

その自己卑下に、「自分じゃなきゃもっと売れたかもしれない」という前提があったとします。

じゃあその編集者さんがその物語に声をかけなかった場合、その物語が書籍化する確率を算出してから出した自己卑下なのかという話です。数字を重視するならばどこまでも徹底的に数値化して考察するべきです。

と、大口を叩いてみましたが、私は「原作がコイツじゃなきゃ今ごろ200万部突破の報告になっていただろうな」と思われる人間です。

だからこそ、ほぼ自傷行為レベルで「自分は駄目なやつです」「私はこんなやつです」と情報開示して、数字に悩む方々の一助になればと、こうして書いています。そうすれば少しは、戦力にもならず別になにかしたわけでもない、「明日から旅に出ます」「休業します」と言っても誰も困らないくらいの私が、なんの役にも立っていないのに大それた肩書を持つことになった事象に意味があるんじゃないかと思うからです。

あれですからね、「物語は数字じゃない!」と主張すると、「結果出してから言え」って反論が飛んでくるじゃないですか。

価値観の話をしてるのに。

結果至上主義で議論すると、人々の尽力に寄生した私に発言権が生まれるんですね。

結果至上主義において経緯と過程の価値は無いも同然、重視されるは結果です。数字を保持している人間の発言が絶対とされるなら、100万部の人間が「数字じゃない」と言えば数字じゃない世界になる。

なので数字はあくまで便宜上の可視化です。

物語の価値を決める値ではないです。それでも数字に価値があるのであれば、0にも価値があるというロジックが機能します。

創作活動を誰かの幸せではなく純然たるビジネスと仮定した場合、たとえば、1万人が読んだけどもう誰も読まない、以後、新規読者が現れない物語。

アクセス0だけど、今後新規読者が現れるか分からない物語。

どちらに価値があるか、業界により多様な意見が発生すると思います。

物語の価値を決めるのは、あくまで読み手です。

たとえば書き手が「ランキング全然取れない、駄目かも」「自分の本全然売れない、価値が無いんだ」と思っても、思想は自由ですが、実際に評価を下すのは読者です。

読み手やファンが一人でもいれば、どんなに閲覧数がなかろうと、売れ行きが悪かろうと打ち切りになろうと価値のある物語です。

「自分の話、閲覧数0なので価値がありません」という方、いるかもしれません。

その自分が自分の話を好きなら、自分が作家であり自分がファンなので価値がある、という論理になります。

あなたの書いたものは、まずあなたが読んでいるということです。あなたがあなたのファンならばあなたは作家です。商業デビュー前だろうと関係ないです。

(あと閲覧数至上主義で数の話題になるならば、100万部突破肩書の適用範囲になるので再考ください)

さて、人の尽力に寄生して、こうして数字を掲げあたかも自分の発言に説得力があるかのように振る舞う私の醜さを見れば、「ああやっぱり結果も大事かもだけど過程も大事だな」「物語の価値を決めるのは数字だけじゃないんだな」「数字だけ重視すると危ないな」と、ご理解いただけることと存じます。

なので、「全然結果出ないし書いてていいのかな」とか「自分大丈夫なのかな」と思っている方の不安が、ほんの少しでも和らげばと思います。

苦悩を完全になくすのは無理と言うか、苦悩も創作の彩りだと思うので。緩和というか。

なので、と上の文と重なりますが、大丈夫です。日々「やってらんねえな」「つらいな」「きつい」と思ってる方や、不安を抱えている方の一助になれば幸いです。

私は正直、誰かに書いていいとか、大丈夫とか判決を下す立場の人間ではないですし、誰かを承認するほどの人間ではありません。

それでも「だ、だれでもいいので、書いてていいよって言ってほしい」「大丈夫って言われたい」という方いらっしゃいましたら、どんな人間に対してでも、書いてていい、大丈夫だと思っている人間がここに一人います。いっぱい肩書きがあります。本当は、人々の才能に寄生するドブハイエナですが、数字とか経歴とか気にする方がいたら、私を根拠にしてください。

なので大丈夫です。ご安心ください。

駄目だったらどうするんだ、責任取れるのかというところですが、その時は、ごめんなさいって言います。許してください。土下座が誰よりも得意です。特技それしかないです。SNS運用、下手です。ツイッター、更新は月に1度、よく呟きを消します。

交流。読者の皆様とは稀にしますが、その交流の定義は、質問や感想に返信をすること、誤字報告を適用することです。一緒に作っていると思っています。

作家さんと話し合うことは一切ありません。閉鎖的な人間です。それでも、とりあえず七年はどうにかなりました。大丈夫です。

最後に、それでも不安な方へ。

私が、世界で一番好きな文字の作家さん、今、ブックマーク一桁でした。なろうには二作投稿していますが、どちらもです。その好きな作家というか、自分が読んでていいなと思える物語に会うまで、27年かかりました。以後、3年。かけがえのない唯一無二です。

なので書き手で、自分には本当にファンがいない、と思う方、待ってたほうが良いです。

あなたの話をまだ読んでないけど、あなたの作品さえあればギリギリ道を踏み外さない、みたいな人間が必ず出てくると思います。

「好きって言われた、信じられない、この人はまだあんまり物語を知らない、おべっかだ‼」と回避に走りたくなるかもしれません。

物語やその人間に好意がある=ファンは好きと言う。
ファンがおべっか(嘘を)を使う=物語やその人間に好意があるから好かれたくておべっか

上記理論ですから。

どのみち、その好意を受け止めるしかありません。疑うより受け止める練習に時間を費やしたほうがいいと思います。そのほうが建設的です。

感想が全く来ないけど……と不安になる方、ご安心ください。好きだからこそ感想を書きたい、好きだからこそ感想を書きたくない人間、大体二種類です。

そして好きだからこそ感想を書きたい人間の中には、明るくて感想を書くのが大好きに見えて、これが正しいのかと不安でいっぱいの人間がいます。大事にしてください。

では、以上です。最初にこれ言えば良かったのかな、と思うのですが、小説家になろうの運営様においては、おそらく「どんなにアクセスが0でもブクマが0でも反応が無くてもサイトを利用してくれているだけで嬉しい」と、お考えと存じます。

(ですよね?)

というかそもそもガイドラインにあるんですよ。

書き手の方向け
https://syosetu.com/site/aboutwriter/

読者の方向け
https://syosetu.com/site/aboutreader/

要約すると価値のない話なんてない、皆書いていい、皆読んでいい、あなたは大事、というものだと思うので、辛い方は上記読むのが一番と存じます。

あれですね、これで自著リンク貼ると誤認誘導詐欺みたいな気がするので自粛するのですが、あれですね、自著リンク貼らずに小説家になろうさんのガイドライン掲載する人間、前代未聞かもしれないですね。

まあ、諸々長くなりましたが、皆様、夏真っ盛りですので、熱中症にお気をつけてください。ナトリウムとカリウムのバランス、しっかり意識してください。

秋、書店さんで見慣れた名前があるなーと思ったら、もしよろしければ気にしてくだされば幸いです。内容はちょっと、ホラー学園青春地獄絵図みたいな感じで、万人受けは厳しいというか、10人……50人に1人ウケです。なのでお気をつけて。

では。