【お便りコーナー】第216回: 玉露先生

小説家になろうをいつもご利用いただきありがとうございます。
この度、小説家になろう登録作者である玉露先生よりお便りをいただきましたのでこの場にて利用者の皆様にお伝えいたします。

以下、玉露先生よりいただきました文面となります。

こんにちは、玉露と申します。
世間からすると、処女作のみ商業化経験があるだけの人間ですので、「作家」といっていいのかは定かではござませんが、商業作家を目標とされている方へ経験をもとに提案できれば、とお便りを送らせていただきました。

最初の商業化は10万字前後で完結のある作品にする。

おすすめする提案はこれだけです。
10万字前後時点で一度区切り、最初に主人公が直面した問題・事件は解決させてください。それを1部とした場合、2部も同様に10万字前後で区切りのあるものにされるとよいでしょう。3部以降はおまかせします。
タイトル回収もできれば、1部以内にしておくのが望ましいです。

文庫などは約12万字が目安です。
商業化の際に改訂や書き下ろしがあることを考慮して、10万字ぐらいがWEBに掲載するにはちょうどよいでしょう。
理由は、出版社と結ぶ当初の契約条件が、基本1~2巻分の刊行しか確約していないからです。

漫画家でいうところの連載獲得のために、雑誌に読み切りを載せてもらっている状況と考えていただけるとイメージしやすいかと思います。
つまり、まずは最初の1巻だけで読者に満足感を与え、この作品の続きを読みたいと思わせないといけません。
満足感を与える一因が「その一冊で完結している。読み切れること。」です。to be continuedをしてしまうと、期待する人と、続刊がでるまで待てずにもやっとしてしまう人もいる一長一短の賭けとなります。

1巻刊行以降は、売上という運任せかつ実数値での判定が基準となります。
面白ければかならず売れるという世界ではないため、複数巻で完結前提の作品を最初に商業化されてしまうと、結果として続刊できなかったときに読者側へは「中途半端に終わった」という印象を与え、作家側もWEB連載を継続していた場合、続刊できなかった失意で連載継続が困難になり、最悪エタります。
WEB側でも完結できなかった場合、この作家は「WEBでも完結できない」とさらに信用を失う恐れもあります。

商売は失った信用を取り戻すのが大変です。
不測の事態で事情があったとしても、ほとんどの方はみえる結果だけで判断されます。

なので、商業化の当初は、
契約条件の出版確定巻数で一定の完結をするものにされるか、
短編でアンソロジーコミカライズ化を狙い、
作風を知ってもらうというジョブを打つことを推奨します。

作品に詰め込んだ要素をぜんぶ一度に語りたい気持ちはあるでしょうが、そこをぐっと堪えて、徐々に小出しにするようにされてください。「続刊で明かされる新事実!」とかの方が読者も期待を寄せやすくなるので、後回しになっていい設定・要素は後出しにしましょう。

自分は商業化を視野に入れていなかった人間で、商業化の結果がどうであろうとWEB版で完結させることが目標だったため、コロナ禍(緊急事態宣言)の大打撃でノベライズの続刊ができなかったことは連載に支障を来たしませんでした。
しかし、商業作家を目標にされている方は、そこで傷付きます。商業化が決まった時点が、出版社にとっては数うち当たる弾のひとつでまだ試用期間であることを後になって知るのです。

創作のモチベーション維持のために、安牌をきるのは全然アリです。いいじゃないですか、保身で堅実な手法をとっても。
それに、この手法に慣れると完結力を磨けるので、商業作家に必要な1冊に物語を収める力が磨けます。

この約10万字ごと完結手法、実はコミカライズのときにも役に立ちます。
通常、小説1巻分は、コミカライズの2~3巻分に相当します。この巻数は、マンガで続刊できなかった場合の完結巻数でもあります。5巻の壁などとマンガ業界ではいわれ、5巻以上の続刊が困難なことが一般的です。ということは、小説で2巻までを1巻完結方式にすれば、コミカライズ側で5巻以下完結だとしても有終の美を飾れます。
小説を読まずマンガしか読まない方からすると、原作があるかどうかにかかわらず、漫画家先生の作品とみなされるので、漫画家先生の評価まで中途半端で終わった方と誤解されかねません。
けれど、運命の分かれ道までは1巻完結方式をとっておくと、お互い有終の美を飾ったと読者によい印象を与えることができ、原作側にも漫画家側にもWin-Winな結果となります。ひとつきれいに完結できた作品があるというだけで、読者から信用を得られるのでよきです。

文字数がいくら多くても大丈夫なWEBと、『本』という枠での制限がある商業は勝手が違います。
戦争などいろいろな諸事情により紙価格が高騰し、コスト高により紙媒体での出版ハードルがあがっている昨今です。続刊の基準値がシビアになっていることでしょう。
確約分しか巻数はでない可能性を踏まえているかどうかで、商業化を意識した作品作りも変わってくるのではないでしょうか。
1冊内に起承転結を収める練習にもなるので、よろしければ約10万字完結での積み木方式をお試しください。

この案を採用されるかは任意ですが、志の高さゆえに現実とのアンマッチで傷付く方が減るよう祈っております。



以下は自身の経験談なので、確認されるかは任意です。
(あくまで、自分の場合はこうだったというだけのものになります)

今回のお便りの寄稿を思い至ったのは、コミカライズくださっている漫画家先生にお手数をかけて申し訳ないな、と感じたからです。
あ。よい経験をしたこそ感じたものですので、その点だけ誤解なきよう。

処女作のコミカライズは一応現在も連載中でして、それでもコロナ禍により3巻完結しかけていました。そうなっていたとしても、タイトル回収はしていましたし、約10万字で区切りながら書いていたのでそこを目安に完結はできていたことでしょう。
読者様の応援により現在も連載しているものの、続刊の仕方が、新刊がでる都度売上見合いで、「もう1巻分描いてもいいよ」と許可いただくのをくり返しての現在です。
またコミカライズ3巻でる前には、原作は約6冊分の量でWEB完結していました。
そうなると、3巻完結ver.、4巻完結ver.、5巻完結ver. ……とどこでどう終わるかを都度、追加できる量から見直してプロットを再構成する手間が発生します。漫画家先生が原作を気に入ってくださり、自分が原作側で真の完結を迎えてしまったばかりに、可能な限り原作の要素を取り入れた完結ができるよう毎度腐心くださいました。削るのをすごく惜しんで、真の完結までもっていけないかと唸るほど悩んでくださるので、大事に扱われて嬉しい分だけ、とても申し訳なく感じたのです。

だからこそ、
状況の推移に応じてプロットを再構成するにしても、積み木方式の作品だったら、漫画家先生ないし構成担当の先生の稼働が比較的軽く済んだのだろうと感じました。

商業化を視野に入れた場合のスタンスを学べたのが処女作です。

処女作:乙女ゲーのモブですらないんだが
漫画:日芽野メノ先生
原作:玉露
出版:スクウェア・エニックス
掲載:マンガUP!
https://www.manga-up.com/titles/606