【お便りコーナー】第179回: 夢見里 龍先生

小説家になろうをいつもご利用いただきありがとうございます。
この度、小説家になろう登録作者である夢見里 龍先生よりお便りをいただきましたのでこの場にて利用者の皆様にお伝えいたします。

以下、夢見里 龍先生よりいただきました文面となります。

皆様、こんにちは。
はじめましてだったりお久し振りだったりするかとおもいますが、あらためてご挨拶させていただきます。
夢見里龍でございます。

小説家になろう 様に登録して約二年と七ヶ月ほどが経ち、今年九月をもって書籍化打診をいただいての出版が三作となりました。
「後宮食医の薬膳帖」メディアワークス文庫
「後宮の女官占い師は心を読んで謎を解く」ファミ通文庫(B六判)

 そして9月2日には新しく
「後宮の死化粧妃 ワケあり妖妃と奇人官吏の暗黒検視事件簿」
 https://ncode.syosetu.com/n7609ii/
こちらがアース・スタールナさまから書籍化されます。
後宮+エンバーミング+検視ミステリ+溺愛+LGBT要素+ヒューマンドラマという様々な要素を組みあわせたライト文芸で、屍を愛する僕っ娘の妃と彼女への愛執がきわまりすぎて奇人と変態(?)の境界線をうろうろするイケメン官吏が死にまつわる事件を解いていく後宮ミステリです。加筆修正もかなり頑張りました。
夢子様の絵だけでも一見価値アリですので、宜しければ、ぜひ公式サイト様の特設ページから覗いていただけると嬉しいです。
▷特設ページ https://www.es-luna.jp/bookdetail/42shigesho_luna.php

さて、そんなわけでご挨拶とご報告を終えて、ここからは「ココを意識したから書籍化打診をいただけたのかも」という経験則のようなものを書かせていただきたいとおもいます。もっとも、私はまだまだ「来年もまだ小説家と名乗れるだろうか」とおびえている身でして、ほんとうは皆様にアドバイスなんかできるようなものではございません。なので「へえ、こんなやりかたもあるんだ」「おもしろい考えかただな」程度に読んでいただけますと幸いです。

以前(https://blog.syosetu.com/article/view/article_id/4638/)は構成について語らせていただきましたので、このたびは導入について書かせていただきます。

小説は導入がいちばんたいせつというのは度々耳にする創作論です。現実にはいちばんではないとおもいますが、読者様がこの小説を読もうかなとおもったときに最もはじめに読むところであり、連載であればそこから投稿をはじめ、初動がきまるわけですから重要であることは確かです。
文庫では「10ページで読者を小説のなかに惹きこめ」と語られることもあります。これはおおよそ3000文字から5000文字程に換算できます。小説家になろう に投稿するときは1話から2話にあたります。現実にエピソード別アクセス解析をするとこのあたりから読者様が離れる傾向が強いです。それはもう、ばっさりとバイバイされています。悲しいくらいに。このバイバイをどれだけ減らせるか、それがブクマにつながると考えています。

ここからは持論です。

導入とは小説における「玄関」です。
家ではなく、レストランを想像していただけると解りやすいかとおもいます。どれだけ美味しい料理を提供していても、看板がなかったり、玄関が通りにむかってついていなかったり、価格帯がわからないと客足は遠のいてしまいます。

つまり、たいせつなのは「入りやすさ」です。

まずは「看板」です。
導入における看板とはタイトルのことではなく「これが売りですよ」というのが明確になっているか、だとおもっています。
大阪の〇〇道楽を想像してみてください。壁に高々と掲げられたカニの看板をみれば、どんな料理が食べられるか、なにがおいしいのか、すぐにわかりますよね。
「売り」とはつまり、読者の「期待」です。
小説の1話2話から何処に期待を寄せて読めばいいのかがわかる。これが「入りやすい看板」です。
私はココを意識しました。

後宮食医の薬膳帖では「不遇なヒロイン」が薬膳グルメで患者を治療し、事件の謎を解いて「活躍」し「昇進」していくということがわかるように心掛けています。まわりから疎まれ、処刑されかけているところをみせることで、彼女はどん底から這いあがるんだなという期待を読者様に抱いてもらうのです。
 
続けて「間口」です。
玄関の間口はなるべく通りにむけ、大きく取りましょう。
これは小説に置き換えると読者様にとってなじみのある要素を冒頭に提示することで「安心感」を提供することではないかと私は考えました。
後宮食医の薬膳帖では「処刑」から始めています。これは悪役令嬢ものを読みなれた読者様にとってスムーズに物語に入りやすい要素であると感じたからです。

また、後宮の死化粧妃では何処かで読んだことのあるような冒頭を意識しました。

不可解なことが起きる ⇒ 助手役になる人物(奇人官吏)が事件を解決する探偵役(妖妃)の噂を聴き、疑いながらも逢いにいく ⇒ ミステリアスな探偵役の登場 ⇒ こんなやつが探偵? と想うがずば抜けた推理を発揮

お約束です。王道です。
読者様によって思い浮かぶものは小説だったり漫画だったりと違えども、たぶん(なんか読んだことあるなあ)と感じるはずです。
ココを意識しました。
テンプレといえばそうですが、オリジナリティはそのあとに組みこめばいいのです。
これができるようになるまで、私はたぶん十年程かかっています。読んだこともない奇抜なものほどいいなとおもっていました。ですが、先人がやらなかったことの八割は先人が想いついたけど敢えてやらなかったことです。
お約束は安心感につながり、抵抗なく読み進められるようになると踏みました。

最後は「価格帯」です。
例えるならばそうですね提示されているメニューが「ランチ6000~」とか「鮨一貫時価」とか「シェフの創作ディナーのみ」とか、敷居が高そう。とおもったら、お客さんは素通りします。
読者様にとっての価格帯とは「作者が想定する読者層の幅」や「作者が読者にもとめる基礎知識」だとおもっています。これを払しょくするために私のたどりついた答えはこちらでした。

まず、ひとつ。要素をたくさんいれることです。
「薬膳」だけだと薬膳に興味のあるひとだけが読むことになります。でも「後宮」で「ミステリ」で「グルメ」で「恋愛」で「サクセスあり」といわれると、どの要素が好きなひとでも読みやすくなります。
 
もうひとつは読者に基礎知識を強要しないことです。
たとえば、テーブルに運ばれてきた料理を食べるまえに、つかわれているスパイスを嗅ぎわけないと食べられない料理って難易度高すぎませんか?

まえにお便りコーナーにて私は「専門知識を小説に組みこむ」という話(https://blog.syosetu.com/article/view/article_id/4583/)をしました。

ですが、いきなり難解な専門用語がならび、読むのに基礎知識を要する小説になるといっきに読者を選ぶことになります。
私はそのむかし、戦闘機が登場する小説を書いたことがあるのですが専門書を頭に叩きこんで、冒頭からドックファイトを披露し「フラットスピンした」だの「ラムジェット」だの用語をいれまくりました。だって格好よかったから…泣
意気揚々と公募にだしたのですが、結果、見事なまでに落選しました。
一夜漬けの知識をすっかり忘れた後で読むと、なにがなんやらわかりません。そりゃ落ちるわ。
解説もなく「ダブル・イフェクト」だの「デグレッセ」だの難解な用語が登場すると、ふつうの読者は「あ、これは私が読むことは想定されていないんだな」となるのではないかとおもいます。
スパイスの種類なんか知らんでも美味しい。これがいちばんです。
特に冒頭では控えましょう。後からコアな知識を織りこむのはいいです。読者が慣れたころを狙って、解説を添えて混ぜこみましょう。食べ進めて「これ、美味しいですね」と言われたころに「こちら、特殊なスパイスをつかっております」というのはすごくいいとおもいます。

長々と語りました。

*~*~*おさらい*~*~*
1「小説の導入はいわば玄関」
2「看板を取りつけよう その小説を売りを提示し読者様に期待を持ってもらうといいかも」
3「玄関の間口を広く取ろう 読んだことのあるお約束から始めると読み進めやすいかも」
4「誰でも食事ができるレストランになろう 要素は特盛り 基礎知識を強要しない」

経験則といいましたが、結局は私の失敗話です。笑ってやってください。
そしてここまでやっても、五割から六割くらいの読者様は1話から2話で「ばいばい」します。悲しい。でも残った四割ほどの読者様のなかに編集者様がいて、打診のお声が掛かるかもしれません。かかればいいな。

最後になりましたが、もう一度だけ宣伝させてください。

「後宮の死化粧妃 ワケあり妖妃と奇人官吏の暗黒検視事件簿」アース・スタールナ
https://www.es-luna.jp/bookdetail/42shigesho_luna.php
  9月2日発売(単行本)
ワケあり妃は屍を葬り、身分格差、男女格差によって隠された死の真実を暴く

上記のURLは公式サイトの特設ページにつながっており、人気絵師 夢子様による素晴らしい表紙絵や口絵をご覧いただけます。宜しければ冒頭10ページを"試し読み"いただき「お、これは続きが読みたいぞ」と想っていただけたら嬉しいです。
ついでにお迎えいただいた日には夢見里は喜びの舞を踊ります。
 
皆様の創作が幸せなものとなりますことを祈って、筆をおきます。それではまた、お逢いいたしましょう。
夢見里 龍