【お便りコーナー】第145回: 夢見里 龍先生

小説家になろうをいつもご利用いただきありがとうございます。
この度、小説家になろう登録作者である 夢見里 龍先生よりお便りをいただきましたのでこの場にて利用者の皆様にお伝えいたします。

以下、夢見里 龍先生よりいただきました文面となります。

 皆様、こんにちは、夢見里龍(ゆめみし りゅう)と申します。
 このたび「小説家になろう」から《後宮食医の薬膳帖1》《後宮食医の薬膳帖2》《後宮の女官占い師は心を読んで謎を解く》と連続で、後宮ミステリを出版させていただいているものです。
 読者さまのおかげさまで、三冊ともご好評をいただいており、後宮物のライト文芸でありながら男女の境なく幅広い読者様から続々とご感想を賜っております。
 ほんとうに感謝の想いがつきません!
 
 さて、このたびは「小説家になろう」にて書籍化を目指している皆様にちょっとしたアドバイス! というほどのものではないのですが、私はこうやっているうちになんか、書籍化させていただけました! みたいなものをお話しできれば、とおもっています。
 
 それは「小説に専門分野を組みこむこと」です。
 
 え、難しそう、とおもったでしょうか。いえいえ、意外とそうでもないのです。
 専門分野というと難しそうですが、好きな分野、興味があって調べている分野、これについてだったら詳しいぞという分野を、小説に取り入れていくのです。
 例えば「酪農」「農業」「介護」「医薬」といった専門職にまつわる分野、「料理」「DIY」「セラピー」といった趣味にまつわる分野、あとは昨今だと「Vtuber」とかも人気分野ですよね。
 これだったら、人よりも知っているぞ! とおもう分野をさらに掘りさげていけば、かならず小説につながる扉があるはずです。

 私の場合だと――――

 ファミ通文庫から好評発売中の《後宮の女官占い師は心を読んで謎を解く》では「行動心理学」という分野を「後宮ミステリ」に組みあわせています。
 行動心理学とは人の無意識の仕草などから、思考を読み取る、というものです。
 例えば、そうですね。人は嘘をついているとき、視線をかならず「右上」にむけるそうです。人間は想像力を働かせるときは左脳を、なにかを想いだすときは右脳をつかいます。視線と脳の動きは交差しており、嘘をつくるために左脳を働かせると、無意識に視線が右側にむかってしまうのだとか。
 こうした心理学に基づいて、科学調査もできない「後宮」という世界観で事件を推理していく、という流れになっています。はじめは殺人事件などですが、話はどんどんとスケールが拡がり、廃嫡された第一皇子を皇帝にするため、心理学を駆使して民衆を動かすことになります。

 専門分野を小説に取りいれるさいに、私が最も意識しているのは「難解になりすぎないこと」です。

 さらにいってしまえば、組みこむのはその分野の「入門編」くらいの知識でいいとおもっています。
 なんなら、どの分野も「入門編」がいちばんおもしろいです。

 ただ、作者はある程度、勉強しておきましょう。なぜならば、小説に取り入れる知識というのは読者がテンポよく読めるようにかなり割愛しなければならないからです。割愛というのは、知識を訳すことです。
 面倒な用語を訳して、わかりやすい言葉に修正する。というのはもちろんのこと、「AがBになって、Cという現象を起こすことでDになる」という仕組みがあっても、テンポが必要な場面では「AはDになる」で充分だったりします。
 …………わかる、わかりますよ。せっかく勉強した知識を、いちからじゅうまで入れたくなるのは! 私もそうです!

 でも読者は専門書ではなく、小説を読みにきているのです。

 こういうときは、料理を想像しましょう。炒飯をつくるのに食材をあつめて、それを全部つかう、なんてことありますか? 
 お米はだいたい、5キロで売っています。でも、炒飯を5キロつくりますか? たまねぎもネットに入って3個売りですが、残しておいて、今度はカレーにしよう、とか思いませんか。それと一緒です。
(ちなみに私は、昔は炒飯をつくるなら、5キロのお米ぜんぶをつかわないともったいないとおもっていました。あの頃の公募原稿を読んでくださっていた下読みさんには頭があがりません。ほんとうにすみませんでした)
 
 あとは、取りいれる分野を「さらに細かい要素」と組みあわせることです。
 例えば「薬」といっても、異世界で抗生物質、消毒液をつくる! などの「モノづくり」に振るのか、「料理」をして薬膳にするのか、ではかなり違ってきます。
 
 メディアワークス文庫から好評発売中の《後宮食医の薬膳帖》では「漢方」「薬膳」という分野を取り扱っていますが、単純に「薬膳」+「後宮」だけだとよくある組みあわせなので、そこに「毒疫」という現実にはない「五行思想からなる奇病」というファンタジー要素をプラスしています。
 木の毒に侵されると脚から梅の花が咲いたり、火の毒だと触れるものすべてが燃えあがったり。水の毒では鱗が生えて、水に浸かっていないと息ができなくなります。
 そうした毒を、薬膳で解毒する。
 中国においては食材も五行思想に基づいて分類されています。人参や筍などは「土」の食材で、唐辛子、生姜は「金」の食材といったかんじです。
 五行思想においては「金」は「木」に克つので、「木」の毒を解くには「金」の食材をつかった薬膳を患者に処方します。
 ただ「木」の毒でも「水」から毒を吸いあげたのであれば、「水」の毒にたいする「薬」も必要になってきたりするので――そのあたりに推理という要素がかかわってきます。よって「推理」での連載を続けていました。

 そのオリジナル要素を読者様からご好評いただき、打診を賜ることができました。

 
 小説は錬金術だとおもっています。
 好きなもの、興味があるもの、得意なものを組みあわせて、鍋にいれたらポポンッと素敵な小説ができあがる!
 
 なによりも「私はこの分野が好きだ」という想いをこめれば、それが読者様や編集部様の胸に響いて、よき結果に繋がるのではないかと私はおもっています。
 長々と語りましたが、こちらはあくまでも私の場合はこうでした、という実例です。ちょっとでも参考になれば、嬉しいです。
 
 最後にもう一度だけ、宣伝させてください。

 行動心理学+後宮ミステリ
《後宮の女官占い師は心を読んで謎を解く》ファミ通文庫(B6判)
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 薬膳漢方+五行思想+後宮ミステリ
《後宮食医の薬膳帖 廃姫は毒を喰らいて薬となす》メディアワークス文庫
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 さきほどの話を読んで「書籍化したんだったら参考までに読んでみるか」とか「専門分野ってどんなんだろう」とかおもっていただけたら、ぜひとも一度、御手に取っていただければ嬉しいです。
 皆様の創作がワクワクに満ちたものであることを祈りつつ、筆をおかせていただきます。
 またどこかでお逢いできれば、幸甚です。
 夢見里龍でした。