【お便りコーナー】第117回:粉雪先生

小説家になろうをいつもご利用いただきありがとうございます。
この度、小説家になろう登録作者である粉雪先生よりお便りをいただきましたのでこの場にて利用者の皆様にお伝えいたします。

以下、粉雪先生よりいただきました文面となります。

 初めてお便りします。錬金術師ネリアと魔術師の杖をめぐるお話、『魔術師の杖』シリーズ(https://izuminovels.jp/series/cat/neria/)を連載させていただいている粉雪と申します。

 ずっと読み専でしたが2020年6月より小説家になろう様で『魔術師の杖』の連載を始めたところ、なんと半年もしないうちに書籍化が決まり、1年後には出版されていました。

 11月25日には5巻目となる『魔術師の杖⑤ ネリアとお城の舞踏会』がいずみノベルズ様より発売です。(https://izuminovels.jp/isbn-9784295601333/

 実はこの小説、10万字ほど書いたところでお試しにつけたコンテストタグでは、一次審査にもひっかかりませんでした。

 それなのにある日いきなり、なろうの運営様から「出版社から書籍化の打診が来ています」とメッセージをいただいたのです。

 マジでそんな事があるんですね! 

 ランキング上位の人気作だったりコンテストの入賞作でなくとも、書籍化のチャンスが舞いこんできて、シリーズで出版できたのです。ありがたいこと発売後も安定して売れ続けており、このたび5巻をだすことができました。応援してくださる読者さんのおかげです。

 あとからいずみノベルズの方にうかがったところ、人気がある分野は確かにあるものの、実はいろんなジャンルの本を探して検索をかけるため、人気ジャンルやテンプレにこだわる必要はないとのこと。

 今はWEBコミックの原作になるような短編や中編も人気です。私の場合は出版社さんがちょうどシリーズとして育てられる、レーベルの核となる長編を探しておられました。

 数十万字を超える長編を書く人は少なかったのと、いくつもの幸運が重なった結果です。

 もちろん出版してからのほうが大変で、慣れない書籍化作業に四苦八苦し、なろうの連載も続けたいしで……8kgも体重が減り、職場で倒れて迷惑をかけて自己嫌悪に陥ったことも。

 それでも泣きながら書きあげたその部分が、読者さんからも「この場面が一番好き」と言っていただくシーンとなり、ある意味シリーズ化を決定づけてくれました。今回それが5巻の表紙となっています。

 今回は書籍化を通して、私が感じたことを5つお伝えしようと思います。

 1.自分の好きなように書いていい。

 私は書店で売られているふつうの小説よりも、小説家になろうに掲載されている小説を読むのが好きです。
 何よりも書き手の皆さんの発想が自由で、ご自分の『好き』をとことん追求して書いておられるのが、とても楽しそうです。
 いずみノベルズの編集長さんからも「粉雪さんはこれがデビュー作ですから気の赴くままに書いて、ご自分のスタイルを確立してください」と言われました。とくに内容に関して注文をつけられることもありませんでした。

 楽しいのが一番、好きなように書いていいのです。

 2.タイトルはよく考えよう。

 これは自分の反省で、『魔術師の杖』というタイトルは何も考えずにつけました。錬金術師のヒロインが活躍する話なのに。

 3.いま投稿する『一話』が面白いか、常に意識する。

 何十人と読みにこられても、「続きが読みたい」とブックマークしてくださるのはほんの数人です。けれどそれを数百話積み重ねてここまで来ました。

 4.話を無理に考えない。

 私はあまり話を考えません。というのも一生懸命に考えた話はたいして面白くないのです。夢にみた場面をバッと書き起こしただけの投稿を、「一番ココが好き」といってくださる読者さんもいます。
 もちろん小説理論とかを勉強してきちんとプロットを練って書く方はすごいですし、自分もちゃんとやれたら……とは思いますが、結局自分の中から湧きだしてくる物語が一番自然です。

 5.疲れたら休んでもいい。

 忙しいと時間がない……というより、心が動かなくなります。それで誰かの心を動かせるような物語が書けるわけもなく、私はときどきお休みをいただいてます。
 なろうは読む読まないも自由なら、書く書かないも自由です。「書けない」と感じたら無理せず休んでも大丈夫。私が数ヵ月お休みをしたとき、ブックマークは減るどころか増えました。
 それにどんなに頑張っても、話の節目や読者さんの都合で読みに来る人は必ず減ります。それでも書き続ければ、また新しい読者さんがやってきます。

 最後に……書籍化を決めるのも、その本を購入するか決めるのも読者さんです。どんな出版社よりも先に、誰かがその物語を「面白い」とみつけてくれます。それがなろうのいい所です。

 まずは書くことを楽しんで、ご自分の読者さんといっしょに作品を創りあげてください。

11月25日発売!
『魔術師の杖⑤ ネリアとお城の舞踏会』(https://izuminovels.jp/isbn-9784295601333/
Amazon(https://amzn.asia/d/cSYy7uS
いずみノベルズ様より好評発売中!
『魔術師の杖』シリーズ(https://izuminovels.jp/series/cat/neria/

【お便りコーナー】第116回:マナシロカナタ先生

小説家になろうをいつもご利用いただきありがとうございます。
この度、小説家になろう登録作者であるマナシロカナタ先生よりお便りをいただきましたのでこの場にて利用者の皆様にお伝えいたします。

以下、マナシロカナタ先生よりいただきました文面となります。

小説家になろうユーザーの皆様、初めまして。
またお読みいただいた事がある読者の方はいつも応援ありがとうございます。

去る10月25日に、

・子犬を助けたらクラスで人気の美少女が俺だけ名前で呼び始めた。「もぅ、こーへいのえっち......」

という作品でブレイブ文庫よりデビューをいたしましたマナシロカナタと申します。
簡単に作品紹介をいたしますと、第1回一二三書房WEB小説大賞にて≪銀賞≫をいただいた、

・実質同居の幼馴染に振られて暗黒の高校生活を送り始めた俺が偶然、子犬を助けたらクラスで人気の美少女が彼女になった。「もぅ、こーへいのえっち……」

という高校生×高校生のアオハル追体験ラブコメを改題し、前半部分に約5万字の加筆をしたものになります。

幼い頃に元祖SDガンダムとゾイドを友達の家に持ち寄り、今でいう異世界ファンタジー風のお話をみんなで一緒に作りながら遊んでいた自分が、こうやってデビューすることができて本当に感無量です。
Web投稿時から作品を応援して頂いた皆様には感謝の気持ちしかありません。

また幼い当時は割りばしに紙を巻きつけて「秘伝の巻物!」とかやって、一生懸命に遊んでいた記憶があります。
記憶違いでなければ巻物には「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」と書いていました。
幼い頃から中二病全開ですね(苦笑)

そんな自分が大人になってからある日突然、一度きりしかない人生だから大好きなライトノベルの作家になろうと思い立ちました。

しかしながら作家になるための壁はとても高く、公募やWeb小説賞では数え切れないほどの落選を繰り返し、デビューをするまでに実に9年の月日が流れました。

受賞に至らないまま数百万字を執筆し続ける間に、いつの間にか携帯電話はスマホに完全に置き換わり。
ガンプラは店頭では買えないのが当たり前になり、平成から令和へと元号まで変わってしまいました。
もはや当時とは隔世の感すらあります。

ですがそれでも。
諦めずに書き続けたことで、今回こうして念願のデビューを果たすことができました。

つまり何が言いたいかと申しますと。

もし今、デビューという夢を諦めかけている作者の方がおられましたら、10年近くしつこく書き続けたことでデビューを果たしたマナシロカナタなる作家がいることをぜひ知って欲しいのです。

もちろん、諦めなければ夢がかなうとは申しません。
自分自身、今年の初めに受賞の連絡をいただくまでは「そろそろいい年だし、どれだけ書いても無理だし、いい加減諦めようかな」と思ったことが何度もありました。

それでも最後まで諦めずに書き続けたことが、夢をかなえることができた最も大きな要因だったと思っています。

本当に月並みな意見で恐縮ですが、諦めないことの大切さを伝えることで締めの言葉とさせていただきます。

長文をお読みいただきありがとうございました。
よろしければデビュー作も読んでいただければ嬉しく思います!


▼子犬を助けたらクラスで人気の美少女が俺だけ名前で呼び始めた。「もぅ、こーへいのえっち......」
ブレイブ文庫(一二三書房)

公式:https://www.hifumi.co.jp/lineup/9784891998745/
Amazon:https://www.amazon.co.jp/dp/4891998741/

【お便りコーナー】第115回: 絹野帽子先生

小説家になろうをいつもご利用いただきありがとうございます。
この度、小説家になろう登録作者である絹野帽子(きぬのぼうし)先生よりお便りをいただきましたのでこの場にて利用者の皆様にお伝えいたします。

以下、絹野帽子(きぬのぼうし)先生よりいただきました文面となります。

こんにちわ。
初めての方、はじめまして、絹野帽子(きぬのぼうし)と申します。
すでに私の作品の読者の方、いつも応援ありがとうございます。

この度、小説家になろう様で連載中の
『攻撃魔術の使えない魔術師 〜異世界転性しました。新しい人生は楽しく生きます〜』
が、MFブックス様で書籍化しました。10月25日に発売されます。
特設ページはこちら:https://mfbooks.jp/product/322206001131.html

このコーナーで書籍の宣伝をするのが、ちょっとした目標でしたので、今回、それが叶って嬉しいです。

さて、私からも、後続の作者の方々へのちょっとしたアドバイスを贈らせてもらいます。
「ふーん、そういう考え方もあるんだ」くらいに受け取ってもらえたら幸いです。

私が、小説を書く上で重要だなと思っていることは『知ること』です。
「何当たり前なことを」と思われるかもしれませんが、あえて、このことを私は大事にして欲しいと思います。

例えば、プリンです。
転生モノで主人公が作る定番のお菓子ですね。

プリンの材料といえば「牛乳、卵、砂糖」です。
作り方は、ざっくり書けば「混ぜて、加熱して固める」でしょう。
このあたりまでは、普通に『知っていること』かもしれません。

では、プリンをもっと『知ってもらうこと』にします。

牛乳の乳脂肪率によって、できあがるプリンの硬さやコクが変わってきます。
生クリームを足してみるのもいいでしょう。
牛乳の代わりに豆乳を使うとさっぱりとした感じに仕上がります。

材料の1つである牛乳を少し掘り下げるだけでも、これだけ『知ること』ができます。

加熱する方法だっていくつもあります。
多くのレシピだとオーブンを使ったり蒸し器を使ったりすることが多いでしょう。
私の場合も昔はオーブンを使っていました。最近では圧力鍋を使っています。
「え? 圧力鍋?」と思うかもしれません、
私も最初は、そう思っていて、そのレシピには見向きもしませでした。
でも、ある日、気になって実際に試してみると、すごく簡単に美味しいプリンができたじゃないですか。
私は圧力鍋でプリンを作るレシピは『知っていた』けど、実際に作ってみて『知ること』もあったのです。

どうでしょうか? プリンについて、新しく『知ること』ができたでしょうか?
そして、実は『知ること』は楽しいのです。
読者の方へ『知ること』を伝えるのは、楽しませることにも通じます。
そのためには、まずは作者が『知ること』を楽しむのが必要です、という話でした。

それでは、このお便りが、いつかだれかの執筆の一助になれたら、と願い〆とさせていただきます。

【お便りコーナー】第114回: 優月アカネ先生

小説家になろうをいつもご利用いただきありがとうございます。
この度、小説家になろう登録作者である優月アカネ先生よりお便りをいただきましたのでこの場にて利用者の皆様にお伝えいたします。

以下、優月アカネ先生よりいただきました文面となります。

 なろうの皆さま、こんにちは。優月アカネと申します。
 こちらのお便りコーナーは、ちょっとしたコラムのようでもあり、また、書籍化された諸先生方の人間味を感じることができるため、毎回楽しく拝読しておりました。
 今回寄稿する機会を得ましたので、書籍化に至るまでの小話や、僭越ながらアド"バイスっぽいことを書いてみたいと思います。

 そもそも私は文学とは無縁な世界でボンヤリと生きてきました。ライトノベルにも馴染みがなかったのですが、人気漫画の原作から「小説家になろう」の存在を知り、「読み専」から作者に発展したクチです。

 書籍化した『最強魔王様は病弱だった!~溺愛された地味薬師の異世界医療改革~』(書籍タイトル:薬師と魔王 永遠の眷恋に咲く)は、私の初投稿作でもあります。
 薬関係の仕事をしていたことから、「薬学の面白さを広めたい」という思いでなんとなく書き始めたのですが、当初のクオリティはとても低いものでした。罫線や三点リーダーは偶数個、感嘆符の後ろは一マス空けるといった作法ができていないのは当たり前で、誤字脱字が溢れかえっていました。内容も内容で、読者を選ぶようなネタ(例:ニキビから石鹸を作る。懸命な大人の判断により、書籍版からは削除)が相次ぎ、賛否さまざまなご意見を頂戴しました。
 けれども、私は書くことを止めませんでした。なぜなら私の目標は薬学の布教にあり、全ての読者をハッピーにすることではなかったからです。こんなことを言っていいのか分かりませんが、「楽しいと思ってくれる人だけ、楽しんでくれればいい」という気持ちだったのです。

 この意思は半分正解で半分誤りだったと、少し後になって気が付きました。
 物語を書く情熱はあったのですが、アクセス数やポイントに伸び悩み、いったん状況を振り返ってみたのです。
 そこで、薬学の布教が目的であるならば、尖りすぎた内容ではなく大衆に受ける要素を盛り込み、門戸を広く持った方がよいということに気が付きました(今更!)。
 妙に強気だった自分を改め、頂いたご意見はすぐ内容に反映しました。「ニキビ石鹸」などというニッチなネタではなく、ペニシリンや再生医療といった耳に馴染みのあるネタを考案しました。
 これは別に読者のイエスマンになったわけではなく、ちっぽけな自分のポリシーと照らし合わせ、「いいや、私は元のままの方が楽しいと思う」という場合は自分の感覚を尊重しました。

 幸いにして素晴らしい読者様方に恵まれ、作品はどんどんいい方向に変化し、結果的に以前より多くの方に見て頂けるようになりました。そして最終的には、雲の上の話だと思っていた書籍化というところまで達することができました。

 素人読者が作者になってみて、小説を書くということは非常に難しいものだと痛感しました。ただ一文一文を羅列するだけでなく、文の積み重ねにストーリーの波を持たせ、人間の感情を揺さぶるものでなければいわゆる商業書籍にはならないのだろうと思います。むろん趣味として好きに書くということにおいては、何の縛りもあるはずがありません。

 このような経験を経て、「書籍化を目指す場合にはどうしたらよいか」ということに対する私なりのアンサーはこちらです。
 書籍をチラッと見て頂ければ一目瞭然ですが、私は決して文章力が高いわけではありません。ではなぜ書籍化できたのか?
 それは、「自分が好きなことを書き」「なるべく多くの人に受け入れられるよう、適度に流行を取り入れ」「頂いたご意見ご感想を前向きに検討」し、「一年弱、死ぬ気で試行錯誤した」からです。
 この四点を押えれば、かなりの確率であなたの作品も日の目を見ることと思います。もちろん様々な考え方がありますので、そのうちの一つとして「ふーん」と思っていただければ幸いです。
 ただし、一つ注意点があります。「一年弱、死ぬ気で試行錯誤した」副作用についてです。
 私の場合、筋肉の著明な衰えが生じ、健康診断で貧血を指摘され、体重は五キロ増加しました。

 健康あっての執筆活動です。本当に死んでしまっては意味がありません。この秋は運動に勤しみたいと思います。
 どうか皆さまご無理なく、そして何より楽しく取り組まれますよう。共に頑張っていきましょう。

▼薬師と魔王 永遠の眷恋に咲く(上下巻)
リケジョ薬師×病弱魔王様の異世界医療ファンタジー。
KADOKAWA メディアワークス文庫
https://mwbunko.com/product/kusushitomaou/322206000250.html
上巻 Amazon:https://www.amazon.co.jp/dp/4049146479?tag=mwbunkoweb-22 
下巻 Amazon:https://www.amazon.co.jp/dp/4049146487?tag=mwbunkoweb-22 

【お便りコーナー】第113回: 遊森謡子(10周年)先生

小説家になろうをいつもご利用いただきありがとうございます。
この度、小説家になろう登録作者である遊森謡子(10周年)先生よりお便りをいただきましたのでこの場にて利用者の皆様にお伝えいたします。

以下、遊森謡子(10周年)先生よりいただきました文面となります。

初めての皆さんもお馴染みの皆さんもこんにちは、遊森謡子(ゆもりうたこ)と申します。
『小説家になろう』さんには何と11年半お世話になっており、古参勢と言っていいのではないでしょうか。また、なろう作品で商業デビューし、おかげさまでこの2022年7月28日で10周年です。

有名作家ですとは逆立ちしても言えませんが、なろうさん出身で商業10年という作家はそう多くないようです。
そこで、どなたかの参考に、自分の記念に、そしてなろう運営さんや交流して下さる皆さんへの感謝を込めて、お便りを認めさせていただきました。

私がなろうさんと出会ったのは、2010年です。当時は個人サイトも隆盛で、私はweb小説、中でも当時人気だった社会人女子の異世界トリップものにどハマりし、探しては読みふけっていました。そのうち、同じ書式で書かれた小説をたくさん見つけたことから、なろうさんを知りました。
私も書きたい、という気持ちがむくむくと沸き上がり、2011年1月になろうさんに登録、初投稿。自分でサイトを作れない私のようなアナログ人間でも、簡単に投稿できるシステムのおかげで、なろう作家になることができました。同じ経緯で読者から作者になった方、大勢いらっしゃることでしょう。

その時の私は、書籍化したいなどとはカケラも思っていませんでした。
なんて書くと「うっそだー」と言われそうですが、まだwebからの書籍化など数えるほどしか例がなかった頃です。そんなこと考えもしない方が『普通』だったのです。

というわけで、私はひたすら、たーーーのしーーーい! という気持ちだけで毎日小説を書いていました(笑)
なろうさんでは、読者と作者が交流して盛り上がります。私の大好きな、社会人女子が異世界トリップするという『型』(いわゆるなろうテンプレ?)も、まだ読んだことがない要素を入れて「こんなパターンもアリじゃない?」と書けば、打てば響くように「じゃあこれは?」と他の作品が現れる。ジャンルはさらに盛り上がります。同好の士がたくさん見つかるのも、嬉しいことでした。

半年以上書き、もっと多くの人に読んでもらいたいと欲が出てきて、アルファポリスさんのコンテストに応募。受賞はしませんでしたが、これをきっかけに声をかけていただき、2012年7月に出版デビューしました。こんなことが自分の人生に起こるなんて、と、夢のようでした。
それからも刊行は続き、夢見心地も落ち着き、やりがいのある仕事として向き合うようになりました。編集さんに色々と教えていただき、スキルアップもできていると思います。

ところで、皆さんは『アンダーマイニング効果』というものをご存じでしょうか。自発的にやっている行動に報酬が与えられると、やる気が出てさらに行動することができますが、その報酬がなくなったとたん、やる気を失って最初の自発的な行動すら減ってしまう……というような心理作用のことです。好きなことを仕事にしたら辛くなった、なんて話、よく聞きますよね。
デビューして5、6年が経った頃、この罠に嵌りました。今やっている仕事の次の予定がない、面白いと思って投稿した新作に数字がつかない。『なろう系』の面白さに世間が気づき、作家が次々とデビューしている中、私程度の作家なんて埋もれるばかりでは?
書くのをしんどく感じて、潮時かな、という思いが頭をよぎりました。

それでもまた、なろうさんに新作を投稿しようと思えたのは、書籍化を考えずに「好き!」だけで書いていた頃の楽しさを覚えていたからです。古参で得した点かもしれません。
気を取り直して書き始めたのは、これまた大好きな異種族の交流もの。それまで数字のためにと気にしていた更新ペースや投稿時間を、新作では考慮せず、とにかく自分が一番楽しく書けるように心がけました。書く楽しさが行間ににじみ出た作品は、読む方も楽しいですから。
流行要素の『薬草(薬師)』を入れたあたりは未練かもですが(笑)、ちょうど「ファンタジーに出てくる薬湯って面白いな」と思ったタイミングでしたし、既製品として作る薬ではなく個人個人に合わせて作る薬湯は、異種族交流ものとの相性がよかったのです。

その作品が、『Uターン薬湯屋の寝込みがちスローライフ』です。
https://ncode.syosetu.com/n3309fa/
ちょっとしんどいから楽に生きたい、という願望がタイトルにも表れているわけですが、これが読者さんの琴線に触れたのかどうなのか、久しぶりに数字が伸び始めました。
コンテスト系は応募しては落ちまくっていましたが、この作品でまた挑戦してみようか。今夜にでも応募タグをつけよう。
そう思っていた日の夕方、なろうマイページに赤い文字が。
なろうさんで書き続けて8年弱、初めての、運営さんを通しての書籍化打診メッセージでした。

こうして、『Uターン薬湯屋~』はフロンティアワークスさんのレーベル・アリアンローズから『薬草茶を作ります お腹がすいたらスープもどうぞ』と改題し刊行されました。
https://arianrose.jp/novel/?series_id=2128
全3巻、好評発売中です。あの時にあきらめなかった「好き!」をたくさん詰め込んだ作品です。

もう一つ付け加えるならば、面白いと思って投稿したのに数字が伸びなかった作品というのは『降嫁おとめと守護ぎつね』です。
https://ncode.syosetu.com/n8750ew/
現時点でも総合評価は1,531ptですが、あれから4年近く経った今年の春、pixivさんのマンガ原作コンテストで佳作を受賞しました。
10年作家やって、受賞したの初めてです。何がどうなるか、わからないものです……いや本当に……

ネット世界は全てがものすごいスピードで流れ、流行もあっという間に移り変わっていくように見えます。でも、積み重ねたものが消えるわけではないようで、過去作と世間の流行がいきなり「カチッ」とハマることもあるし、仕事の人間関係なども広がっていきます。
今も私は、自分の「好き!」を軸に、読者さんと楽しさを共有できる「流行」も取り入れつつ小説を書いています。数字はついたりつかなかったりですし(気になる方はマイページからご覧下さい)、仕事となると「好き」だけではどうにもならないことももちろんあり、悩みは尽きません。
でもやっぱり、基礎を支える部分は、お仕事作品も趣味作品も変わりません。

私にきっかけと、楽しむ場所を与えて下さった小説家になろうさん、本当にありがとうございます。
今後もどうなるかわかりませんが、踏ん張っていこうと思います。

一作家のお便りを最後まで読んで下さった方、ありがとうございました。
皆さんも、自分の中の「好き!」を世間の荒波から大事に守りつつ、web小説を楽しめますように。
そして、もしよかったら遊森の世界に遊びに来て下さい。一緒に物語を楽しみましょう!

遊森謡子